重要性がますます高まる、医療機関におけるDI業務
医療安全の確保などリスク・マネジメントが常に求められる医療機関。入院時持参薬や後発品が増加の一途を辿るなか、薬剤情報の効率的な管理をはじめ、医師や看護師、そして患者さんへの適切な情報配信、調剤業務や病棟業務などにおけるノウハウや経験の活用において、ITをいかに有効活用するかが、医療機関におけるサービスの質や安全性の向上と、密接に関わるようになっている。
神奈川県下における地域密着型の中核病院として、また高度な先進医療を提供する大学病院としての役割を担う昭和大学藤が丘病院は、いちはやく「JUS D.I.」をオーダリングシステムと連携し、医薬品情報の収集や各種資料作成などの薬剤師の業務を効率化。病棟における医師、看護師に対する重要情報の配信、患者さんへの服薬指導などにも、より力を入れている。導入に携わった、元・昭和大学藤が丘病院薬剤部課長で、現在、横浜薬科大学教授の鷲見正宏氏に、医療機関におけるDI業務のIT化の重要性について、「JUS D.I.」活用の経験をもとに語っていただいた。大学病院で医薬品情報を扱う業務から、薬物を学問として深める薬科大学の教授に身を転じた鷲見氏。薬に接するその立場は変わろうとも、医薬品と人との間に関わる……というその視点は変わらない。では、医療、ひいては診療業務におけるDI業務の位置づけと、その重要性について、鷲見氏はどのように捉えているのか。
鷲見氏DI業務は、全ての診療業務の根幹に位置するものです。薬物は、『情報』を伴ってはじめて『医薬品』として機能します。そのため、薬剤にかかわるすべての情報を扱う業務がDI業務と言っても過言ではありません。基本的な業務としては、情報の収集、専門的評価、院内および患者さんへの医薬品の情報周知・提供などが挙げられますが、昨今は膨大な量の情報を扱う状況にあり、例えば、添付文書に含まれる基本情報のほか、有効成分に関する理化学的知見、最新の治療情報、ガイドライン、副作用情報、症例報告(適応外使用や希少疾患など)など、接すべき情報は多種多様になっています。
薬剤部・薬局は院内で使用される薬物治療の“ブレーン”とも言うべき存在です。医薬品の適正使用、有害事象の早期発見、情報集積によるリスク回避など、薬物治療に関する基本原則からリスクヘッジまで、すべての工程に関わっています。今日は、情報化社会と医療の進歩に伴って、高度な医薬品情報の情報処理能力が必要とされており、DIシステム、データベースの構築など、医療情報システムの環境整備が日を追って肝要となりつつあると思います。
昭和大学藤が丘病院薬剤部が、「JUS D.I.」を採用したのが2004年。それまでも、オーダリングシステムに付属するDIツールが導入されていたが、原因不明の文字化けや検索時におけるヒット率の低さ、データ更新頻度の少なさなどが足かせとなって、十分に活用されていなかった。当時、薬剤部課長として勤務していた鷲見氏の耳に、「JUS D.I.」の名前が入ったのは、そんな時期だった。

鷲見氏まず、注目したのが、添付文書が毎日更新されること。そして、院内採用薬品だけを対象に的を絞った検索をかけられることでした。藤が丘病院では、この頃、全病棟に薬剤師が配置されるようになり、院内に350台以上導入されていたオーダリング端末とJUS D.I.を連携させることで、同一端末上から、薬剤師が医師や患者さんに必要な医薬品情報を入手し、すぐに対応できる環境が整いつつありました。
だが、院内にはシステムへの新たな出費に難色を示す意見が皆無だったわけではない。だが、そんな反対意見を一蹴できる「JUS D.I.」のいくつかの特長について、鷲見氏は着目していた。
最新の情報を院内医薬品集に盛り込める利点

鷲見氏当時、藤が丘病院では5年おきに院内医薬品集の改訂を行い、追補版を毎年発行していました。しかし、添付文書の改訂や採用医薬品の変更などが次々と行われるため、追補版を発行しても到底、最新の情報には追いつきません。そこで着目したのが、「JUS D.I.」の院内医薬品集作成機能です。必要に応じてプリントアウト可能な、目次付きのオンライン院内医薬品集を簡単に作成することができる。しかも、添付文書は毎日更新されるため、常に最新の改訂情報をそこに加えて公開することが可能な点も大きな魅力でした。しかも、それまで作成していた医薬品集の印刷費などのコスト削減分と、「JUS D.I.」の導入で新たに生じるコスト(初期導入費および月額の更新費用、ハード保守費など)を比較計算すると、トータルでコストダウンになることが分かったことで、採用は決定的になりました。
実は、「JUS D.I.」の用途はそれだけに留まらなかった。そのひとつが、薬剤部で蓄積した経験やノウハウを集大成した各種情報へのリンクだ。病棟薬剤師が頻繁に尋ねられる質問と回答をQ&A集にまとめたり、注射薬で配合変化の大きいものを一覧にしている。
鷲見氏従来は、携帯情報端末であるPDAに各種のデータを保存して、病棟薬剤師に配布していましたが、処理スピードが遅かったのが致命的でした。それを、「JUS D.I.」上に、院内で蓄積した情報にリンクを張り、必要に応じて、病棟に配置したオーダリングシステムのプリンタを使って、出力するようにしたのです。そうすることで、薬剤情報の的確な確認が可能になりました。
人知・書籍に勝る「ITの力」
持参薬に関して薬剤師が患者安全確保に適切に関与することを示した2005年1月の日本病院薬剤師会の通達以来、また、DPCに基づく包括評価支払制度の導入を背景に、持参薬の利用は増加傾向にある。
鷲見氏院内採用薬の新旧入れ替えが行われたり、採用を取り消されたりすることが頻繁にある中で、薬剤師も医薬品の知識をすべて網羅することは困難になっています。新しく赴任された医師ならば、なおさら、どのような薬が採用されているか瞬時には把握できないでしょう。そういった状況下では、医師・薬剤師ともに、医療ITを積極的に有効活用すべきだと考えます。「JUS D.I.」の持参薬管理/薬剤鑑別機能は、薬剤師が同効薬を探す際にアシストをしてくれる効果的な仕組みといえるでしょう。また、新版から加わった相互作用検索機能(※1)は、患者が持ち込んだ持参薬について持参薬相互のチェックを可能にしたことで、より迅速かつスムースな処方・投薬をサポートしてくれる強力なツールだと思います。
ちなみに私が在任中、藤が丘病院では、「JUS D.I.」の持参薬管理/薬剤鑑別機能を使用した場合と、書籍を使用した場合の双方のケースについて、薬剤鑑別、採用の有無、代替薬の選択を行い、その回答内容、および要した時間について比較する研究を行いました(第16回日本医療薬学会年会,金沢,2006)。この結果、鑑別・選択に要した時間については、JUS D.I.を利用したグループの方が9~21分、書籍を利用したグループは17~39分と、ほぼ倍以上の時間がかかることがわかったのです。各薬品における所要時間の比較も、全ての薬品において「JUS D.I.」を活用したグループの方が短時間であるという点で、「JUS D.I.」の有用性が確認されました。
「副作用」も医師と看護師では欲しい情報が異なる
当時、神経内科を担当していた鷲見氏は、重症筋無力症の患者さんにとっての禁忌薬や、妊婦さんに禁忌の解熱鎮痛薬のしおりを作成し、投薬時に手渡していた。これらのデータを参照するために、「JUS D.I.」を活用していた。
鷲見氏緊急情報については、病棟薬剤師が医局に持って行って説明することが必須です。月に1回、DIインフォメーションを渡して、「あとはよろしく」ではダメです。また、内容によっては、「こちらの先生には重要だけど、こちらの先生にはそうではない」といった判断力を、薬剤師がある程度持ち合わせていなければならないと思います。それが医療事故を未然に防ぐことにもつながります。
巷間にあふれる、様々な医薬品情報の中から一次情報を選り抜き、その中から、医師や看護師、患者が必要とする情報を的確な形態で提供するといった「情報管制官」的な役割を院内で担っているのが薬剤師だ。
鷲見氏ひと口に「副作用」といっても、医師や看護師によって、その意味するレベルは異なります。医師にとっては禁忌が最も重要な情報です。一方、看護師は、禁忌だけでなく、慎重投与の情報が欲しい。たとえば、ある薬剤を投与すると、顔色が赤くなる、といった変化があるとします。そうした患者さんの微妙な容態変化を見極めることが、看護師にとって大切です。病棟薬剤師も、血圧が高い患者にはこうなります、というきめ細かな薬剤情報を入手することで、推奨する薬剤の種類も変わってきますから。
その意味で、医薬品の添付文書だけでなく、インタビューフォームを表示できる「JUS D.I.」は重宝するツールだという。
鷲見氏薬剤師にとって大切なのは、インタビューフォームの裏にある情報をどう読み取るかなのです。「副作用」が起きる患者さんと、起きない患者さんがいます。薬剤師も病棟で患者さんと接する機会をできるだけ増やし、一人ひとりの患者さんに即した薬の情報を担当医師や看護師に伝えていくこと。価値あるDI活動の上で、インタビューフォームを読みこなせる薬剤師を育て、薬剤業務の次元をもう一段、上げていく。そのためのツールとして、「JUS D.I.」をより活用すべきでしょう。
※1:「相互作用検索機能」はAdvance版のみ有効な機能です

鷲見 正宏 氏
横浜薬科大学 臨床薬学科/薬剤学研究室 (教授)
昭和大学薬学部卒 薬学博士
【所属学会】
日本薬学会、日本医療薬学会,日本歯科薬物療法学会、日本プライマリ・ケア学会、日本予防医学リスクマネージメント学会、日本薬剤師会、日本病院薬剤師会、神奈川県薬剤師会、神奈川県病院薬剤師会、東京都病院薬剤師会
2007年まで昭和大学藤が丘病院の薬剤部に在籍。現在の専門分野は「医療現場のニーズに応えられる薬剤学」。主な現在の研究課題は、院内特殊製剤の製剤設計と臨床評価、抗パーキンソン病薬の体内動態と投与設計、ニトログリセリンの血管内代謝および耐性機構の解明、ワーファリンのPK/PD解析、医薬品情報のネットワーク化の研究、インフォームド・コンセント取得のためのツール作成と評価、薬剤管理指導支援ツールの作成と評価など。
(※参考:http://hamayaku.jp/contents/teacher/te_49.html)

